はじまりは一枚の名刺だった。
あるレセプションパーティーで、一人の作家と名刺を交わした。
その時は、ほんの挨拶程度でろくに話もしなかったのに
引き出しの奥にしまった一枚の名刺が何故かずっと気になっていた。
あまり気になるので、ある日思い切ってメールを出した。
「あなたの作品を是非もう一度見たい。」と。
それが、作家・濱坂幸代と深く知り合うきっかけとなった。
たまたま彼女の個展が続いていたお陰で
幸代と幸代の作品に直に触れる機会を与えられた。
私は思った。何かできることはないだろうか・・・。

IMPRESSEEの全てのはじまりがここにあり
この後、本当にひとつずつ形にしていくことになった。

 
       
   
 

幸代の個展を取材してもらう為に東京出張した時のこと。
雑誌の取材も無事に終わり、夕食を済ませたところで、
幸代に一人の男性を紹介された。それが佐久間祐一だった。
彼もまたモノ作る人で、その当時はガラスをやっていた。
彼はまっすぐな眼差しで「濱坂幸代のストーカー」です!」と
自己紹介をした。
後になって、祐一が私達が夕食を済ませたところに
やってきたのではなく、私達の夕食の間、幸代を送るために
ずっと車の中で待っていたのだと聞いた。
私は自称ストーカーの彼に軽い感動を覚えた。

その後も祐一は幸代への
献身的でまっすぐな行動で周囲に感銘を与え続け
あの時の笑顔のストーカーは、ついには異例の大昇格となった。

 
       
   
 

まだ私が会社に勤めていた頃。
スタイリストの友人から
某有名ホテルの新しいプロジェクトに誘われた。
そこで出逢ったのが吉岡真由美。
いつも打てば響くような会話のやりとりが楽しめる女性だった。
最終的にそのプロジェクトからは外れることになったけれども
個々の才能を生かしてチームとして何かを作ることの面白さを
私は再認識し、ここでの出逢いと経験が
IMPRESSEEの草案を作るきっかけとなった。

そして、この真由美との出逢いから程なくして・・・
彼女のパートナーもまた作家だと知ることになった。

 
       
   
 


その後、真由美がアンティークジュエリーを扱っていることを知り
友人と一緒に彼女のコレクションを見に行った。
店に入ると、奥から「いらっしゃい。」と低い声が聞こえ
長身の男性が現れた。作家・吉岡正樹だった。
そこには、ジュエリーと共に正樹の作品が置いてあった。
私はついに全員と出逢った。来るべきところに来たのだ。
この時、IMPRESSEE PROJECT が静かに動き出した。

そして、それはそれぞれの中でゆっくりとあたためられていった。

 
       
   
 

5人が出逢い、しばらくして私は長年お世話になった会社を辞めた。
メンバーもそれぞれに色んな変化の中で
個々に、またチームとして活動を続け、数年が経った。
ある晩、幸代から電話があった。
電話の向こうから興奮した空気が伝わってくる。
今年に入って、どこかにIMPRESSEEの活動拠点を作りたいと
メンバーの誰もが口にしていた矢先だった。
「佳代さん、ギャラリー借りませんか?」
その一言から数日後、私達はこのギャラリーの門をくぐっていた。